10月27日にペプチドリームの戦略的提携先であるBiohaven Pharmaceuticals(Biohaven社)が、多発性骨髄腫の患者さんを対象とするフェーズ1a/1b試験の開始に関するプレスリリースを発表しました(リンク)。
移植前に測定可能残存病変(MRD)が陽性である多発性骨髄腫の患者さんに対して、BHV-1100と患者さん由来のNK細胞(ナチュラルキラー細胞、免疫細胞の一種)を併用する試験を実施します。
MRDとは治療後も患者さんの体内にがん細胞が残っているかを示すもので、MRDが陽性であると再発の可能性が高くなると考えられています。
モジュール②はBiohaven社の独自の技術でIgG抗体に結合する性質を持つ分子です。
本来NK細胞は特定のタンパク質をターゲットにすることは無いのですが、今般の併用試験ではBHV-1100がNK細胞と骨髄腫細胞をブリッジすることにより、NK細胞が効率的に骨髄腫細胞まで運ばれ、免疫作用によりがん細胞を破壊することを狙いとしています。
CD38はすでに効果が検証されているターゲットです。
CD38を標的とするモノクローナル抗体であるDarzalex(ダラザレックス)は
2015年に再発性・難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬として米国で上市し、
2019年からは移植が不適応の多発性骨髄腫のファーストライン治療として使用されています。
ARMは2つのモジュールの組み合わせにより
抗体医薬のADCC活性と同じ働きを持たせることを目指しており、
さらに以下の点などが抗体医薬品より優位である可能性があります。
・サイズが小さく、目的に合わせてモジュールを組み替えることが可能
・製造コストが小さく、製造にかかる時間も短い
・サイズが小さいため免疫原性などの問題を起こしづらい
また、CD38-ARMに関する細胞や動物を用いた実験では、
ダラザレックス投与でみられる副作用の1つであるNK細胞の減少が起きていないという結果が得られています。
今般のフェーズ1a/1b試験の主な目的は安全性を確認することにありますが
移植後MRD陽性からMRD陰性へと変化させる作用があるか、生存率の向上が認められるかなど、治療効果も確認する計画です。
※がん治療薬の場合には、一部有効性データを含めたPh1a/1b試験を完了した後に、Ph2/3(ピボタル試験)を行うという、2段階での開発を行うケースが多いです。旧Kleo社では、Ph2/3ピボタル試験の前段階として、Ph1/2試験と称していましたが、内容としては同じものを指しています。
Biohaven社が患者さんのリクルートを開始したのは2021年6月でしたが、最初の患者登録は2021年10月と想定以上に時間を要しました。移植を伴う治療であり、また免疫機能に影響を受けているがん患者さんに対する臨床試験という中、コロナ禍の中で治験を実施する医療機関側の受け入れ体制の確保、治療のスケジュール調整に時間を要したという背景があったものと認識しています。株主の皆さまからはご心配の声を多くいただきましたが、ようやく開始することとなり大変うれしく思います。
PDPSから生み出されたPDC医薬品がはじめて臨床試験に入るということで、大変楽しみにしているとともに、今後の進捗をしっかり見守っていきたいと思います。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
参考にしたサイト:
Johnson & Johnson 開示資料
ダラザレックス インタビューフォーム
こちらのブログも参照下さい:
クリオ社の臨床候補化合物KP1237が米国FDAよりオーファンドラッグ指定を受けました
米国血液学会(ASH)でクリオ社がCD38-ARMについてポスター発表
米クリオ社との共同研究において多発性骨髄腫を適応症とする臨床候補化合物を創製
多発性骨髄腫:骨髄内にある形質細胞と呼ばれる白血球の一種ががん化する病気。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫が3大血液がんと呼ばれている
寛解:がん細胞が消滅した状態。がんや免疫系疾患など再発の危険性のある難治の病気治療で使われる表現
MRD:Minimal residual disease。治療後に患者さんの体内にがん細胞が検出された状態をMRD陽性と呼ぶ。MRDが陽性であると予後が悪くなると考えられている