2021年10月27日水曜日

Biohaven社がBHV-1100の臨床試験を開始しました

みなさま、こんにちは。IR広報部の沖本です。

1027日にペプチドリームの戦略的提携先であるBiohaven PharmaceuticalsBiohaven社)が、多発性骨髄腫の患者さんを対象とするフェーズ1a/1b試験の開始に関するプレスリリースを発表しました(リンク)。
 
BHV-1100はもともとKP1237という開発コードで、20177月にペプチドリームとKleo Pharmaceuticalsが開始した共同研究開発で見出されたPDC医薬品です。
20202月にIND承認、20209月にはオーファンドラッグ指定を受け臨床試験の準備を行っていました。
20211月のBiohaven社とKleo Pharmaceuticalsの合併により、Biohaven社が開発を引き継ぎ、今般のプレスリリースに至りました。
 
今回開始したフェーズ1a/1b試験はがん免疫治療の一種で、
移植前に測定可能残存病変(MRD)が陽性である多発性骨髄腫の患者さんに対して、BHV-1100と患者さん由来のNK細胞(ナチュラルキラー細胞、免疫細胞の一種)を併用する試験を実施します。
MRDとは治療後も患者さんの体内にがん細胞が残っているかを示すもので、MRDが陽性であると再発の可能性が高くなると考えられています。
 
がん免疫治療とは、人間の身体に備わった免疫機能を活用したがん治療のことで、がんの3大治療と言われている「手術」「薬物療法」「放射線治療」の次に位置する「第4の治療法」と言われることがあります。免疫細胞ががん細胞を攻撃する性質を用いてがん細胞を特異的に攻撃するので、副作用が少ないと言われています。

がん免疫治療とは

BHV-1100CD38-ARMと呼ばれる2つのモジュールを組み合わせたPDC医薬品です。

BHV-1100の構造

モジュール①にはペプチドリームの特殊環状ペプチドの技術が使われており、骨髄腫細胞に多く発現しているCD38というターゲットに特異的に結合します。

モジュール②はBiohaven社の独自の技術でIgG抗体に結合する性質を持つ分子です。

 

本来NK細胞は特定のタンパク質をターゲットにすることは無いのですが、今般の併用試験ではBHV-1100NK細胞と骨髄腫細胞をブリッジすることにより、NK細胞が効率的に骨髄腫細胞まで運ばれ、免疫作用によりがん細胞を破壊することを狙いとしています。


NK細胞との併用


CD38はすでに効果が検証されているターゲットです。

CD38を標的とするモノクローナル抗体であるDarzalex(ダラザレックス)は

2015年に再発性・難治性の多発性骨髄腫に対する治療薬として米国で上市し、

2019年からは移植が不適応の多発性骨髄腫のファーストライン治療として使用されています。

 

ARM2つのモジュールの組み合わせにより

抗体医薬のADCC活性と同じ働きを持たせることを目指しており、

さらに以下の点などが抗体医薬品より優位である可能性があります。

 

・サイズが小さく、目的に合わせてモジュールを組み替えることが可能

・製造コストが小さく、製造にかかる時間も短い

・サイズが小さいため免疫原性などの問題を起こしづらい

 

また、CD38-ARMに関する細胞や動物を用いた実験では、

ダラザレックス投与でみられる副作用の1つであるNK細胞の減少が起きていないという結果が得られています。

 

今般のフェーズ1a/1b試験の主な目的は安全性を確認することにありますが

移植後MRD陽性からMRD陰性へと変化させる作用があるか、生存率の向上が認められるかなど、治療効果も確認する計画です。


※がん治療薬の場合には、一部有効性データを含めたPh1a/1b試験を完了した後に、Ph2/3(ピボタル試験)を行うという、2段階での開発を行うケースが多いです。旧Kleo社では、Ph2/3ピボタル試験の前段階として、Ph1/2試験と称していましたが、内容としては同じものを指しています。

 

Biohaven社が患者さんのリクルートを開始したのは20216月でしたが、最初の患者登録は202110月と想定以上に時間を要しました。移植を伴う治療であり、また免疫機能に影響を受けているがん患者さんに対する臨床試験という中、コロナ禍の中で治験を実施する医療機関側の受け入れ体制の確保、治療のスケジュール調整に時間を要したという背景があったものと認識しています。株主の皆さまからはご心配の声を多くいただきましたが、ようやく開始することとなり大変うれしく思います。

 

PDPSから生み出されたPDC医薬品がはじめて臨床試験に入るということで、大変楽しみにしているとともに、今後の進捗をしっかり見守っていきたいと思います。

 

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


参考にしたサイト:

Biohaven社ウェブサイト

がん情報サービス 免疫療法

Johnson & Johnson 開示資料

ダラザレックス インタビューフォーム


こちらのブログも参照下さい:

クリオ社の臨床候補化合物KP1237が米国FDAよりオーファンドラッグ指定を受けました

クリオ社がASCOKP1237をポスター発表します

クリオ社のIND申請が米国FDAから承認されました

米国血液学会(ASH)でクリオ社がCD38-ARMについてポスター発表

米クリオ社との共同研究において多発性骨髄腫を適応症とする臨床候補化合物を創製

クリオとの戦略的共同研究契約について


多発性骨髄腫:骨髄内にある形質細胞と呼ばれる白血球の一種ががん化する病気。白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫が3大血液がんと呼ばれている

オーファンドラッグ:米国のFDAが米国内の患者数が20万人未満の希少疾患に対する新薬開発を促進するために付与する制度。米国で7年間の排他的先発販売権が与えられるほか、臨床研究費用の税額控除や申請費用の一部免除などの優遇措置が受けられる
寛解:がん細胞が消滅した状態。がんや免疫系疾患など再発の危険性のある難治の病気治療で使われる表現
MRDMinimal residual disease。治療後に患者さんの体内にがん細胞が検出された状態をMRD陽性と呼ぶ。MRDが陽性であると予後が悪くなると考えられている
CD38:骨髄腫細胞など、造血系の腫瘍細胞の表面に多く存在
DarzalexCD38を標的とするモノクローナル抗体。2015年に米国で承認、再発・難治性の多発性骨髄腫の治療に用いられ、適応を拡大していき20185月には米国で造血幹細胞移植を伴う大量化学療法の適応とならない未治療の多発性骨髄腫の適応で承認。2020年のグローバル売上高は4,190百万ドル
ADCC活性:Antibody-dependent cellular cytotoxicity、抗体依存性細胞傷害活性の略。がん細胞などに結合した抗体にNK細胞などのエフェクター細胞が結合し、抗体依存的に細胞を傷害する活性