2017年7月21日金曜日

クリオとの戦略的共同研究開発契約について

みなさん、こんにちは。IR広報部長の岩田です。今回は7月18日に発表したKleo Pharmaceuticals(以下 クリオ)との新規がん免疫治療薬に係る戦略的共同研究開発契約を締結したというニュースを解説します。


今回の提携は、PDC医薬品の開発パイプラインの拡充を図ることが目的です。


当社は独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPSから見出された特殊環状ペプチドを用いて「特殊ペプチド医薬品」の他に「低分子医薬品」や「ペプチド-薬物複合体(PDC)医薬品」の研究開発も進めています。


PDC医薬品とは、特殊環状ペプチドの高い特異性と強い結合力という特性を、標的細胞の特定の箇所へ薬物を届ける運び屋として使用するものです。バイク宅急便のイメージです。今回お届けする薬物はがん免疫治療薬です。がん免疫治療とは、がん細胞を免疫の働きを活用して治療することです。


人間の体は、病原体やがん細胞等の敵の侵入・発生を監視し、攻撃・排除する「免疫機構」の働きで守られています。中心的な役割を担うものが、免疫細胞であるB細胞が産生する「抗体」と呼ばれる生体内物質(タンパク質)です。Yの字の形をしており、標的であるがん細胞と結合するYの字の上の部分をFab領域といい、下の部分をFc領域といいます。


抗体を医薬品として用いる「抗体医薬」のがん細胞に対する主要な攻撃パターンは2つあります。1つ目が結合阻害です。抗体が、がん細胞の表面にある受容体(レセプター)に結合することで、がん細胞の生存・増殖に必要な情報(シグナル)を遮断してしまう戦法です。


2つ目は、ADCC(抗体依存性細胞障害)と呼ばれる戦法です。がん細胞の目印(がん抗原)と結合した抗体は、NK(ナチュラルキラー)細胞等の免疫細胞の援軍の動員を呼びかけます。駆け付けたNK細胞等が抗体のFc領域と結合すると活性化する性質をもっており、パワーアップしたNK細胞等ががん細胞を攻撃するという仕組みです。


今回の提携パートナーであるクリオは米国の名門イエール大学のSpiegel(シュピーゲル)教授の研究室から生まれた技術をもとに設立された大学発バイオベンチャーです。クリオは、抗体医薬の2つ目の戦法であるADCCを、抗体医薬よりもはるかに小分子化された免疫治療薬で実現しようとしている会社といえます。


現在、クリオはARM及びSyAMという2種類のがん免疫治療薬プラットフォームを有しています。ARMとSyAMについての説明は今回のニュースリリースにはありませんでした。私がクリオのホームページに載っている説明を読んで理解している内容をここで説明します。


ARM(アームと呼んでいます)は、Antibody Recruiting Moleculeの頭文字をとったもので、抗体を新兵として募る分子と訳すことができます(注・訳は岩田)。小さい分子の片方の末端に標的であるがん細胞と結合する部位があり、もう一方の末端に抗体と結合する部位が付いています。私が考えるARMのがん細胞に対する作用イメージは、がん患者に投与されたARMが、がん細胞と結合し、抗体を呼び寄せ、ARMと結合した抗体がNK細胞等の免疫細胞の援軍の動員を働きかけ、集まった免疫細胞をパワーアップさせがん細胞を攻撃するというものです。


SyAM(シャムと呼んでいます)は、Synthetic Antibody Mimicの頭文字をとったもので、合成抗体模倣物と訳すことができます(注・訳は岩田)。小さい分子の片方の末端に標的であるがん細胞と結合する部位があるのはARMと一緒ですが、もう一方の末端には抗体のFc領域に相当するものが付いています。抗体を介さずにSyAM自体が抗体のような働きをして直接NK細胞等の免疫細胞を呼び寄せ、集まった免疫細胞をパワーアップさせがん細胞を攻撃するという、よりイノベーティブな技術といえると思います。


クリオが開発しているARMとSyAMの標的であるがん細胞と結合する末端部分については、当社の特殊環状ペプチドに切り替えた方が、さらに特異性高く、強固に結合するものができるのではないかと考えられます。今回の戦略的共同研究開発で、それを検証していきます。当社にとっては、特殊環状ペプチドに、新規がん免疫治療薬を結合させたPDC医薬品ということができます。


当社は、特殊環状ペプチドを用いた医薬品が抗体医薬の代替になると言ってきました。これまでは結合阻害タイプの抗体医薬の代替が研究開発の中心でしたが、今回の提携でADCCタイプの抗体医薬の代替についての研究開発も米国の最先端の会社と戦略的に取り組めることになりました。当社にとって意義深い提携ということができるのです。