2017年6月21日水曜日

JAXAの高品質タンパク質結晶生成実験について

みなさん、こんにちは。IR広報部長の岩田です。今回は6月9日に発表したJAXA(ジャクサと読みます)と高品質タンパク質結晶生成実験において、協力関係を発展させた戦略的なパートナーシップ契約を締結したというニュースを解説します。

JAXAの正式名称は国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構です。JAXAは地上約400㎞上空に建設された国際宇宙ステーション(ISS)の中に、「きぼう」日本実験棟をもっています。そこで宇宙飛行士たちが微小重力環境(地上の100万分の1の重力)で行う高品質タンパク質結晶生成実験が当社の創薬開発にとても重要な情報を与えてくれるのです。ちなみに、アニメ「宇宙兄弟」のヒロイン・せりかは、宇宙飛行士になる目的を、父親が発症した難病の治療薬をISSの無重力空間の中での実験で見つけるためと言ってました。

医薬品の開発とは、病気の原因となっている生体内物質(主にタンパク質からできています)を見出し、この標的タンパク質に強く結合し機能を阻害する化合物を探し出すことから始まります。

今回の標的タンパク質はHER2(ヒト上皮細胞成長因子受容体2)という物質です。HER2(ハーツーと読みます)は医薬品の開発では有名な標的タンパク質で、乳がん患者の25~30%は腫瘍細胞の表面にHER2が過剰に発現しており、このタイプの患者はがんの進行が早く、転移しやすいことが知られています。

当社は独自の創薬開発プラットフォームシステム:PDPSを用いて、HER2と結合する特殊環状ペプチドを見出しています。この特殊環状ペプチドを用いて、PDC(ペプチド‐薬物複合体)医薬品の開発を進めています。しかし、これまで特殊環状ペプチドがHER2のどの箇所に、どのように結合しているのかという結合様式についての3次元画像情報は得ていませんでした。

当社はこの情報を得るためにJAXAに一連の作業を委託しました。「きぼう」日本実験棟には、タンパク質を結晶化させるための「タンパク質結晶生成実験装置」が備え付けられています。まず、HER2と特殊環状ペプチドを結合させたものを、この装置を用いて結晶化させます。ほぼ無重力の環境下で作った結晶は、地上では得ることのできない高品質の結晶が得られます。これを地上に持ち帰り、日本が誇る大型放射光施設「SPring-8」でX線を照射し、その反射(正式には回折)情報をもとに特殊環状ペプチドとHER2の結合様式が精密な3次元画像情報として得られたのです(これをX線結晶構造解析といいます)。

しかも明らかになった結合様式は、これまでに知られていない極めてユニークなものであることも判明しました。今回のことは、当社がHER2を標的に開発を進めている特殊環状ペプチドが有望な候補化合物ということを示唆する貴重な情報であり、さらによいものに磨きあげていく(新薬設計につなげていく)研究開発を加速する効果が大きいと考えられます。JAXAの「きぼう」日本実験棟を利用した一連の作業はまさに「新薬設計支援プラットフォーム」ということができ、当社は協力関係を発展させた戦略的なパートナーシップ契約を締結したのです。