みなさん、こんにちは。IR広報部長の岩田です。当社は3月2日に「革新的ペプチド製造技術に関する共同研究成果について」を発表しました。内容が難しかったのか、このプレスリリースに対する問い合わせはわずかでしたが、科学史に残る重要な技術であると私は思っており、なるべく専門用語を使わずに説明しますのでイメージだけでもつかんでください。
ペプチドは、アミノ酸が2つ以上結合した化合物です。アミノ酸には、人体を構成する20種類のアミノ酸(天然アミノ酸)だけでなく、自然界には人間が人工的に作成したものを含めると1,000種類を超えるアミノ酸が存在しているといわれており、これらは「非天然型アミノ酸(特殊アミノ酸)」と呼ばれています。当社が創薬に用いている特殊環状ペプチドは、天然アミノ酸と非天然型アミノ酸を自在に結合させ、環状にしたものです。
特殊アミノ酸の中でも創薬において重要な役割を果たすものが「N-メチルアミノ酸をはじめとするN-アルキルアミノ酸」です。N-アルキルアミノ酸を含む特殊環状ペプチドは、通常のペプチドと比べて、標的分子に強く結合ができ、膜透過性を有し、免疫原性が低く、生体内で安定であるという特徴を有しています。
今回、当社と日産化学との共同研究により確立された技術は、このN-アルキルアミノ酸を含む特殊ペプチドの製造を“無保護”で、しかも“実用的なレベル”で実現した世界初の快挙なのです。
無保護とは何かを説明します。Aというアミノ酸とBというアミノ酸を結合させてABというペプチドを化学合成する場合、結合する部位によっては性質の異なるペプチドができてしまいます。そこで、目的とするペプチドを合成する場合には、決まった部位だけに結合するように、他に結合する可能性のある部位をマスクする必要があります。このマスクとして用いられているものが保護基と呼ばれる化合物です。現状の製造工程においては、保護基をつけたAというアミノ酸に、保護基をつけたBというアミノ酸を結合させ、その後に保護基を外す(脱保護)という工程でABというペプチドを化学合成しています。つまり、ペプチドを化学的に合成する場合には、「保護」と「脱保護」を繰り返しながらアミノ酸を順番につなげていかなければなりません。
これが当社と日産化学の共同研究の成果により、保護基がついていない無保護アミノ酸、しかも「N-メチルアミノ酸をはじめとするN-アルキルアミノ酸」についても直接連結させることができるようになりました。人間に例えると、個性的な性格で結婚がうまくいかなかったBさん(N-アルキルアミノ酸)をAさんと結婚させるために、世話好きでちょっと強引な仲人(日産化学が開発した縮合剤)とBさんをやんわり説得する友人(シリル化剤)の連携で結婚させるというイメージです。「保護」及び「脱保護」の工程がいらなくなりますので、大幅な時間の短縮、コスト削減、脱保護で使用する溶媒等もいらなくなるので環境にも優しい、いいことづくめの技術に仕上がりました。
これゆえに、化学業界の専門家が最新の研究論文から注目すべき技術を紹介する雑誌であるSynfacts誌において、有機合成界における世界的な権威である山本尚教授により、本技術がペプチド化学における重要な新規技術であると高く評価されたのです。