みなさん、こんにちは。IR広報部長の岩田です。当社は9月20日(金)に富士通株式会社と中分子(ペプチド)創薬に関する共同研究を開始という発表を行いました。富士通が持つ独自の高速コンピューティング技術を活用し、当社の創薬プロセスにおける候補化合物探索の高効率化と高速化を目指すものです。
当社のPDPSを用いた創薬は、1兆種類以上の特殊ペプチドライブラリーを作成し、その中から標的タンパク質と強く結合するものを短期間で選び出すことから始まります。この次に、見い出された特殊ペプチドを薬効、安全性、代謝などの条件を満たす医薬品の候補化合物へと仕上げるために、標的タンパク質にさらに強力に結合し、しかも安定なものにしていく工程が必要になります。この工程において必要な情報が特殊ペプチドの安定配座の情報です。
「安定配座」という用語を初めて聞かれた方が大半だと思いますので少し説明を加えます。ペプチドは2個以上のアミノ酸分子が化学結合によって鎖状あるいは環状につながった化合物です。当社が創薬に用いるペプチドはアミノ酸(生体内タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のみならず、それ以外の特殊アミノ酸を含む)が8個から14個程度結合したペプチドを環状にした特殊ペプチドです。ペプチドの立体構造をどうなっているかというと、アミノ酸分子は回転可能な「結合の手」が複数あるので例えば11種類のアミノ酸分子が決まった順番で結合している環状のペプチドがあった場合、配列情報は1つですが、たくさんの立体構造をとります。分子の立体構造を“配座”、英語でコンフォメーションといいます。
イメージしやすいようにサッカーで説明しますと、1チーム11人で行うサッカーではそれぞれの選手にポジションが決まっていますが、チームの戦略において各選手の立ち位置を変えたフォーメーションをとります。サッカーの場合はグランドという平面での11人の配置ですが、ペプチドの場合は立体空間にありますので11種類のアミノ酸分子が様々な形で存在します。膨大な数のコンフォメーションをとりうるのです。
ペプチド創薬においては、このペプチドがフリーではどのようなコンフォメーションを取りうるのか条件を変えるとどうなるのかがあらかじめコンピュータ上でわかっていると、水中での安定配座や標的タンパク質と結合する際の安定配座などの予測精度が高まり、それを実際に作成して実験で確かめる探索工程にかかる時間を大幅に短縮できると予想されるのです。
共同研究はこれからですが、これがうまくいきますと将来的には金城副社長のコメントが9月20日付の日本経済新聞に紹介されていましたが「有望候補の特定に3カ月かかるケースを10日前後に短縮できる」可能性があるのです。ワクワクする共同研究の始まりです。